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最高裁判所第三小法廷 昭和50年(オ)767号 判決 1976年3月23日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

原審の適法に確定した事実及び本件記録による訴訟の経過は、次のとおりである。(一) 被上告人は、昭和四四年八月二八日、上告人に対し、本件売買契約の無効を主張するとともに、仮定的に、訴訟上右売買契約を取り消す旨の意思を表示し、右売買契約に基づいて上告人に交付した手付金、内金等の返還を求める本訴を提起し、更に、その口頭弁論期日において、右売買契約を解除する旨の意思を表示した。(二) 上告人は、被上告人の右無効、取消、解除の主張を争い、昭和四六年八月一九日、本件売買契約に基づき代金残額等の支払を求める反訴を提起した。(三) 被上告人は、本件売買契約が有効に存在するか否かについての審理が継続中に、本訴における従前の無効、取消、解除の主張を撤回して反訴請求原因事実を認め、上告人の請求にかかる代金残額及び約定の遅延損害金全額を適法に弁済供託したうえ、昭和四八年三月一六日、本件売買契約の履行として、目的物の引渡及び所有権移転登記手続を求める再反訴を提起し、それと同時に本訴請求を放棄した。(四) ところが、その後、上告人は、反訴請求を放棄し、被上告人がさきに本訴においてした本件売買契約の取消、解除を再反訴請求を拒むための抗弁事実として主張するに至つた。

右の事実関係に照らすと、被上告人が、上告人の主張に沿つて、本件売買契約の無効、取消、解除の主張を撤回し、右売買契約上の自己の義務を完全に履行したうえ、再反訴請求に及んだところ、その後に上告人は、一転して、さきに自ら否認し、そのため被上告人が撤回した取消、解除の主張を本件売買契約の効力を争うための防御方法として提出したものであつて、上告人の右のような態度は、訴訟上の信義則に著しく反し許されないと解するのが、相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張するか、原判決の結論に影響を及ぼさない部分を非難するものに帰し、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江里口清雄 裁判官 天野武一 裁判官 坂本吉勝 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕)

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